たまたまマッチングアプリで知り合った人が駆け出しのホストだった…【神野藍】『私をほどく〜AV女優「渡辺まお」回顧録』
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第9回
【行きずりの男とセックスするぐらいなら・・】
大学二年生の冬。
ほんとささいなことが始まりだった。たまたまマッチングアプリで知り合った人が駆け出しのホストで、実際にどういうものか気になり興味本位で着いていった。事前の知識もなかったので、見るもの聞くもの全てが新鮮だった。その人との関係はほんのわずか二週間ほどで終わったが、一度足を踏み入れた泥沼の深みへと沈んでいくのはいとも容易く、そこまで時間もかからなかった。
この頃に自分の性的行為をお金に換え始めた。借金なんて理由ではなく、単純に「こんな稼ぎ方があるんだ」とホストクラブを通じて知ったのがきっかけだった。何となくこれまでも飲み会のタクシー代などは貰っていたし、そこまで貞操観念があるわけでもなかったので、あまり抵抗なく始めてしまった。
マッチングアプリや行きずりの男とセックスするぐらいなら、対価をきちんと貰える方が得だと思っていたし、もちろん気持ち良いとか楽しいとは一度も思ったことがなかったが、きついことがあっても仕事だと思えば自分の気持ちの収拾はつけられた。職種はどうであれ、みんながそうやって自分なりに落としどころをつけて働いている。そんな風に考えていた。
ちゃんと一定の期間指名をして付き合いがあり、「担当」と呼ぶに値する男は一人だけだ。人形みたいに目鼻立ちは整っていて、六つ年上なだけあって雰囲気は落ち着いていた。ホストをはじめて一年経たないぐらいで、たまに飲みにくるぐらいのお客さんはいるものの、定期的に高額なお酒を卸す人はいないらしい。そういう理由もあって、シャンパンを一本卸しただけで感謝された。「こんな俺にごめんね。本当に無理しないで。」なんて健気な態度をとられたのを覚えている。
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✴︎KKベストセラーズ 新刊発売決定✴︎
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が6月17日に発売決定・予約開始!
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「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに